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人間不信

 ご存知の方も多いと思いますが、病院・医院において病院長の権威は絶大なものです。
私は基本的にそういうことに疎い(うとい)ため、あんまりこだわっていません。
ところが中には院長のご機嫌取りに走ってしまう人がいます。

 そんな彼は(以下A)30代前半の柔道整復師、鍼灸指圧マッサージ師の資格をもつ普通の気も良さそうな人でした。
私は当時まだほんの駆け出しで、怖い物知らずでした。
院長にもスタッフにも言いたいことを言ってましたし、それがお互いに良い方向に行くものと信じていました。

 私より10歳程上だったAはどちらかと言うと器用ではなく、勉強は出来るが仕事は?という人でした。
その個人医院ではリハビリに4人のスタッフと助手が1名で、院長は私をとても買ってくれていましたし、もう少し勤めたら主任になって下さいと言われていました。
こちらも悪い気はしませんから、言いたい事は院長にドンドン言っていましたし、院長もそれに答えてリハビリにドンドン力を入れていました。
それが暫く経ってから少しづつ院長の言うことが変わってきました。

院長「後少し経ったらリハビリの規模拡張してリニューアルしようと思ってるんやけど冨田君どう思う」

私 「もう少しスタッフの体制が整ってからの方が良いのではないですか?」

院長「もう2階の病室を壊してリハビリのスペースを倍にしようと思ってるんや」

私 「少し時期が早いように思いますが...。」

 2階は以前入院施設として使っていましたが、医療費改革の煽りで入院受け入れを止めた為に職員の更衣室になっていました。
当然小さな部屋の集まりですから、いたる所に柱があり死角だらけです。
こんな所を今の人数で管理は出来ません。
しかし院長は頑として聞きません。(今思うと当たり前ですね)

院長「ここは私の病院やから私が決める。A君は出来る言うてたよ。」

この一声で改修が始まりました。
Aはそんなこと全然話してなかったのになぁ。
Aにリハビリ拡張のことをどう思うか聞くと、

A 「それは冨田先生の言うとおりですよ。あんな広い所管理出来ませんよ。」

私 「そうですよね。」

 ある日私はいつも通りお弁当を休憩室で食べていると、
事務長さんが入ってきて、

事務「Aには気を付けたほうが良いよ。先生のこと色々院長に吹き込んでたよ。仕事終わったらいつも院長室に来て先生のこと言ってるよ。」

私 「えっ...。」

 そうか..それで急に院長の態度が変わったんか..。
まだまだ人生経験が足りない20代前半のことですから、すっかり人間不信になってしまい、この病院は辞めることにしました。
一応リハビリスタッフに引継ぎをし、理学診療カルテの整理をしてこの個人医院を辞めました。
その後も患者さんからAの話はよく聞きます。
その患者さんの話では、

A 「冨田君は鉄砲玉やからなぁ。
   何も言わずに辞めてそれきりですわ。」

なんてことを言ってたらしいのですが...。
おいおい...あんた丁寧に名刺くれて
「また連絡して下さい」
って言うてたやん。(しなくて良かった)
Aはその後すぐにその医院のリハビリ主任となり、数年働いた後、なんとその個人医院から200m弱の所に鍼灸整骨院を開業し、個人医院の患者全員に開業のお知らせを送り、大いに院長を怒らせたということです。
その個人医院はリハビリに来る人数も減ってしまい、今では院長の往診で盛り返そうとしているようです。